フランスの病院事情【前編】私の主治医は若き日のリチャード・ギア

フランスの病院にかかった日本人女性は、皆さま目をハートにしながら「フランスのお医者さまってカッコいいわね」と言いますわ。フランスで3度の入院・手術を経験した私が思うに……たしかに、イケメンが多いんですの。実際にかれこれ25年も診ていただいている主治医の先生は、若いとき、映画『プリティ・ウーマン』に登場するリチャード・ギアにそっくりでしたわ（年を重ねた今もハンサムですわよ）。診察室に入るたびに、頭の中ではPretty woman♪Walking down the street〜♪なんてテーマソングが流れ、私の気分はジュリア・ロバーツでしたわ。

3度目の手術のときには、麻酔科医を見た瞬間に「マトリックスだわ！」と大興奮。だって白衣を着たキアヌ・リーブスなんですもの。主治医がリチャード・ギア、麻酔科の先生がキアヌ・リーブス、助手の先生まで渋顔でダニエル・クレイグ（『００７』シリーズのジェームズ・ボンド役など）に似ているなんて。ここは手術室じゃなくてハリウッド？あぁ、なんて素敵な瞳なの？どうか私の高鳴る胸も診察してくださいませ──なぁんて浮かれているうちに全身麻酔でぐっすり。夢から覚めたときには、イケメンたちはいなくなっていましたわ。

イケメンか否かは好みに左右されるため結論は出せないのですが、厳しい競争に勝ち、ハードな研修を経て、熱意を持ってお仕事されている方って素敵ですわよね。とはいえどうか皆さま、“イケメンの先生に治療されたいわ”なんて思ってフランスでハメを外しすぎないようにご注意あそばせ。

そんなフランスのお医者さま。日本と同じく、医師になるにはフランスパンよりもほそ〜い門をくぐり抜けなければなりません。医学部に入るのもかなり難しいですが、入学後がホントの勝負なのだとか。まずフランスの医学部は１年生から２年生に上がる進級選抜試験で、13〜15％まで篩（ふるい）にかけられますわ。プライベートを犠牲にし、ひらすら机に向かう日々はとんでもない重圧でしょうね。

残念ながら進級できなかった学生は、歯学部や薬学部、助産師、キネシスト（整体や理学療法をする先生)など他の学部に振り分けられますの。本人の希望とは別に成績順で分けられるというから、なんとも酷な話ですわね。そのうえ、医療とはまったく関係のない学部に配属された場合は、医学部生として学んだ最初の１年までノーカウントになってしまいますわ。フランスの医師不足問題には、医師になるまでの茨の道が影響しているのでしょう。

こうして激しい競争を生き抜いて６年間を過ごした後もすぐに医師になれるわけではなく、一般医になるには９年、産婦人科や脳外科など専門医になるには12年がかかると言われていますわね。学校に入るのも難関、卒業して医者になるのも超難関。優秀なだけでなく、情熱を持って働いてくださっているお医者さまに心から応援と脱帽、そして感謝を送りますわ！

朝起きて胃痛を感じたある日、予約不要の病院にかかるために朝早くから並んだことがありましたの。「遅くても昼前には帰れるかしら」と思っていましたが、大誤算。診察室に入れたのはなんと15時。なにも食べていなかったので、先生に症状を説明する最中にはぐぉーぐがーっと腹の虫が大きく鳴っていましたわ。きっとお医者さま、「さてはこのマダム、胃痛の原因は空腹だな？」なんて思ったことでしょうね。あぁ、恥ずかしいったら！

フランスでは病院を受診する際、基本的に予約が必須ですの。大規模な病院では予約不要な場合もありますが、私のように早朝から並んだり、何時間も待たされたりしますわ。だったら予約を取れば安心……とはいきませんことよ。予約を取るのに半年待ちなんてザラですし、バカンスシーズンは医師が休暇中で予約すらできませんの。検査の充実した人気病院では、毎月“星付きレストラン”さながらの予約争奪戦が繰り広げられますわ。

さらに厄介なことに、フランス在住者で国の保険（Sécurité Sociale：セキュリテ・ソシアル）を取得している場合は主治医の登録がマストになりますわ。他の病院にかかりたいときも主治医の承認が必要になるため、状況によっては何度もやりとりが発生し、足を運ぶ回数もどんどん増えていきますの。

インターネット予約なども普及して昔よりはずいぶん便利になりましたが、予約なしで病院に行く場合は何時間もかかるのが当たり前ですわ。検査もするとなると、1日で終わることはほぼないと考えておいてくださいネ。

フランス在住者でもこのような状況なので、当然海外から旅行で来ている方が受診する場合もかなりバタバタしますわ。そんなフランス旅行中の病院事情については、後編でお話しさせていただきますわね。

今宵はこれでおしまい。
Excellente soirée! あなたにとって穏やかで明るい毎日でありますように。

写真提供：Mme.JM