クリスマスディナーを飾る宝石

生牡蠣

クリスマスのディナーといえば、最初にアペリティフ、その後は生牡蠣やスモークサーモン、フォアグラなどの前菜からメインの七面鳥や子羊などのお肉料理。そして最後にブッシュドノエルのケーキと、これでもか!というぐらいの料理が食卓に並びますのよ。

この日はどのテレビを見てもあおるように「コレステロールとか、ダイエットとか一切考えないで、家族で楽しい時間をお過ごしください。BONNE FETE!(よい休日を!)」とアナウンサーがさけび、多くの家庭で驚くほどたくさんの料理が用意されます。あるフランス人男性がカップルで初めて過ごすクリスマスディナーで、彼女のご両親がつくってくれたからと無理して全部食べたらお腹を壊してしまったというお話もあるとかないとか。知らんけど。

それとフランスでは、ひと皿の美しさも食の大切な要素とされていますのよ。生牡蠣は、そうしたクリスマスのテーブルを飾る、定番メニューのひとつ。見事に殻がむかれて並べられた牡蠣は、まるで宝石のような輝きを放つのですわ。

フランス人は「ちょっと生牡蠣を食べに行こう」と言うと、一人10~12個くらいは普通に食べます(私はもう少しいけますが!)。ちなみにある日本の友人は、生牡蠣が好きすぎてフランスでたらふく食べた翌朝、ホテルで鼻血が出たそう。牡蠣の消費量と鼻血の因果関係はわかりませんが、塩分が結構あるので、食べ過ぎにはご注意くださいませ。

さらにこんなことも…。

ある年、私は日本から遊びに来ていた、牡蠣が苦手だという私にとっては信じられない友人を連れて、フランスの友人宅のクリスマスディナーにお邪魔したことがありました。メニューにはもちろん、牡蠣も登場。しかもてんこ盛り。牡蠣が苦手なんて微塵も思わないフランスの友人は、「どうぞどうぞ、好きなだけ食べてください、bon appétit!」と差し出すのです。

友人はことわりきれず「で、ではひとつだけ……」とおそるおそるひと口。「あなたの分は私が食べますから無理しないで!」と思ったのですが、彼女はいきなり「私、こういうのが食べたかったの!」と興奮気味にさけぶと、気がつけば口からあふれんばかりに食しておりました。

「こういうの」とはどういうこと?と突っ込もうかと思いましたが、それよりも牡蠣が大事。友人がかっさらっていこうとする牡蠣を守り、私はおそるおそるオイスターナイフで殻と格闘しながら、牡蠣をたらふくいただいたのでございます。

小さいほうが大きい?

フランスのレストランや市場で牡蠣をオーダーすると、地名や種類などが細かく説明されますのよ。またメニューを見ると銘柄のあとに「No1」「No3」など番号が記載されていますが、この番号が何を意味するのかご存じ?

これは、牡蠣の大きさを示すもの。番号は0から5まであり、0が一番大きいサイズで5が一番小さいサイズになります。数が少ないほうが牡蠣のサイズが大きいのですわ。当然、私は大きいのが好きですが、フランスでは一般的に「No3」が人気のよう。大きすぎず小さすぎず、このサイズがもっとも身がしまっていて、牡蠣のうまみが堪能できるらしいのです。

お店では、「No2」からあることが一般的ですが、たまに「No0」や「No1」があったりしますの。そのとき、食いしん坊の私は迷わずそれらをオーダーしますわよ。

生牡蠣の美味しい季節はいつ?

フランスでは「生牡蠣はRのつく月に食べる」と言われます。Rのつく月とは、9月から4月の季節 (Septembre, Octobre, Novembre, Décembre, Janvier, Février, Mars, Avril )。寒い時期ということです!

昔は運送事情が今ほどよくなかったので輸送に時間がかかり、とれたてを手に入れることが難しく、生牡蠣だとあたる可能性もあることから、寒いRのつく月に食べるという話が広まったと言われています。今では運送事情もよくなり、それ以外の月でもフレッシュな牡蠣が食べられるようになりましたわ。R以外の月でも生牡蠣を楽しむフランス人もいますのよ。もちろん、私も。ここフランスは、牡蠣愛であふれる国なのでございます。

生牡蠣の美味しい食べ方は?

牡蠣には胡椒が美味!

私の友人に、シーフードで有名な、ある老舗のブラッスリー(居酒屋)のオーナーがいます。その彼いわく、生牡蠣の一番美味しい食べ方は「胡椒をほんのり添えて食べること」なのだそう。私もトライしてみましたが、美味です!牡蠣にはもともと塩気があるのでほんの少しでよいのですが、胡椒を加えることで牡蠣のあまみが際立つようになりますのよ。

昔から牡蠣にはレモンが添えられ、お客さまは白ワインと合わせて召し上がることが多いですが、なぜ?と聞くと、まだ今のように運送事情がよくない頃に、時には日をまたいで数日かけて漁港から大都市に運ばれた事情から、一種の消毒作用としてレモンや白ワインが使われるようになったそうですわ。

今ではより安定して新鮮な牡蠣が食べられるようになったとはいえ、やはり生臭さが気になる方はレモンを入れると食べやすいかもしれませんが、フランスの生牡蠣は新鮮です!私の舌では、日本の牡蠣よりフランスの牡蠣のほうがあっさりしていて食べやすい印象があります。胡椒との相性もばっちり。もし食べる機会がありましたら、ぜひ胡椒を軽く振りかけて召し上がってみてくださいませ!

牡蠣の汁もすするのがフランス流

日仏の文化の違いも関係しているのかもしれませんが、日本は殻をあけたあと、なかの汁を捨てたりする人を見かけますが、実にもったいないことでございます!

フランスでは、牡蠣を専用フォークですくって食べたあと、すーっとあの汁をすすります。少し塩っぽいですが、こちらも美味です。私はさらにフォークで取り切れなかった貝柱があれば、それをフォークで切って食べたりして、牡蠣をあますことなくいただきますの!

テーブルを囲んで

テーブルの上の生牡蠣

苦労しながら、あるいは慣れた手つきで殻をむいて生牡蠣を食す。気心の知れたメンバーと楽しむ生牡蠣パーティーは、私の大のお気に入りの時間です。また、海岸沿いの町ではとれたての生牡蠣を販売しているお店が簡単なテーブルを店先に出したりしています。おうちで生牡蠣パーティーもよいですが、オープンテラスで海を眺めながら生牡蠣と美味しい白ワインを一杯!などなど、フランスではさまざまなシーンで生牡蠣が人々に幸せのひと時を彩ってくれるのです。

さて、次回はパリ名物の1つ「メトロ(地下鉄)」のお話をさせていただきますわ。

今宵はこれでおしまい。
Excellente soirée! あなたにとって穏やかで明るい毎日でありますように。

写真提供:Mme.JM