自分の「やりたいこと」と「向いていること」。
篠原さんがアニメーション業界を目指すようになったのは、どんなきっかけからだったんでしょうか?
小学生の頃にはもう「アニメーターになりたい」と思ってました。もともと絵を描くのが好きで、教科書やノートのはじっこにパラパラマンガを描いていたんです。それを見せたら友達が「すごい!すごい!」ってほめてくれて、こんなに喜んでくれるんだと思って、嬉しくて、それが最初のきっかけだと思います。
小学生の頃からの目標だったんですね!
当時は普通のマンガも描かれていたんですか?
一般的なマンガも描いたりしました。でもやっぱり「動くもの」に対する興味の方が高かったと思います。
普段、家で見ていたテレビアニメや映画などの影響でしょうか?
そうですね。一番影響を受けているのはスタジオジブリの作品です。当時は「ジブリ」も「宮崎駿監督」も知らなかったんですが、面白いなと感じる作品の多くが宮崎監督の作品だと後からわかりました。アニメだけでなく、実写の映画も好きでよく観ていましたね。
篠原さんは器械体操をやられていたと伺いましたが、自分で体を動かすことも好きだったんですか?
それは小学生の頃に観た「ジャッキー・チェン」の映画の影響です(笑)。アクションに憧れて少林寺拳法を習ってみたり、高校生になってからは器械体操部で活動していました。そのきっかけも「動きがかっこいい」こと、その動きを自分でやってみたいというところにあったんだと思います。
高校卒業後の進路はどのように決められたんですか?
そこにはあまり面白いストーリーはなくて(笑)。たまたま美術室に美術の専門学校のパンフレットがあったんです。進むと決めていたアニメーションコースがあって、大学より学費が安かったので「ここでいいか」って。
すごくあっさりですね!
篠原さんは現在フィギュアを使ったコマ撮り動画で注目されていますが、その頃から「コマ撮りをしたい」と考えていたんですか?
いえいえ、当時は考えてもいませんでした。やりたかったのは2Dアニメーションです。コマ撮りについては、専門学校に入学してから知りました。
2Dアニメからコマ撮りに興味が移ったのはどうしてだったんですか?
作画のアニメーターは、まず動画マンとして「綺麗な線」を鉛筆で引けないとダメだったんです。かなり初歩的なスキルなんですが、僕は不器用で綺麗な線が引けなかった。細かい作業をすると手が震えてしまって、「これは自分に向いてない」と感じました。でも、アニメーションはつくりたかった。そんな時に授業で「コマ撮り」を体験したんです。
2Dアニメーターへのつまずきから、コマ撮りとの出会いが生まれたんですね。
はい。その授業では切った紙をちょっとずつ動かす、切り絵のコマ撮りアニメーションを学びました。そして「線を引かないコマ撮りなら、自分でもアニメーションがつくれる!」と思ったんです。
それ以降「コマ撮りでやっていこう!」と思うようになったんですね。
実はそうでもないんです。当時はまだコマ撮りを目指すまで至っていなかったし、2Dアニメーションも諦めていなくて、就活では2Dのアニメーション会社を受けていました。そんな中、たまたまコマ撮りに力を入れているアニメーションスタジオの採用情報を見つけて応募したんです。実技試験を受け、アルバイトからですが入社させてもらえることになりました。
その時の実技試験というのは、どんな内容だったんですか?
コマ撮りで立体の人形を歩かせたり走らせたりするアニメーションをつくるというものでした。でも、専門学校では切り絵のコマ撮りしかやったこともなく、立体の人形を使うのははじめてで。ぶっつけ本番で挑んだんです。アニメーションの出来は自分でも「これはダメだな」と思うレベルでしたね。
その会社ではどんなお仕事をされていたんですか?
コマ撮りに強い会社だったんですが、2Dアニメやキャラクター開発もやっていたので、色々とやらせてもらっていました。
いろんな経験を積むことができたんですね。
そんな中で、コマ撮りに注力するようになっていったのは、どうしてなのでしょうか?
どうしてでしょうね。自分でも明確にはわからないんです。ただ「動かすのが好き」だとはっきりとわかったことと、絵よりもモノの方が、動かした時の実感が強かったり、動かすことの強みが活かせると感じたからかもしれません。あとは単純に、自分がつくったコマ撮りアニメが評価されて、「自分には向いているのかも、得意なのかも」と思えるようになったのだと思います。
篠原さんにとって、自分の「好き」と「得意」が重なるのが「コマ撮り」だったんですね。
「コマ撮りアニメーター」という仕事の未来に感じた危機感。
その後、現在所属する会社に移られましたが、そこではどんな心境の変化があったんでしょうか?
退職した理由はいくつかあるんですが、特に大きかったのは「仕事がなくなるかもしれない」という危機感です。コマ撮りというのはアニメーション手法の中ではニッチな手法です。常にクライアントから仕事があるとも限らないですし、実際、仕事と仕事の間が空いてしまうこともありました。
その間、仕事がないということですか?
はい。長いと1ヵ月くらい空くこともありました。会社員なのでお給料は出るんですが、この先5年後、10年後も、仕事としてコマ撮りを続けたいと思った時に、「このままで大丈夫だろうか」と危機感があったんです。それで、会社任せではなくもっと自分でも仕事をつくれるようにならないといけないと思い、新たな道に進むことを決意しました。
今、所属されているのはどのような会社なのでしょうか?
LuaaZ(ルアーズ)というYouTube事業に特化した会社です。さまざまなジャンルのクリエイターが所属していて、Z世代を対象としたコンテンツ制作を行っています。アニメーションスタジオではないので、待っていれば仕事が来るということはなく、自分でつくらなければいけません。ただ、ありがたいことに今のところはクライアントから依頼のご連絡をいただくことが多いです。
営業をせずとも仕事が来るなんてすごいですね!
クライアントはどのようにして篠原さんを知り、仕事を依頼されるんでしょうか?
仕事への危機感を抱いていた会社員当時に「何かしないと」と思って、SNSでコマ撮り動画を発信し始めたんです。なので、僕のことを知る一番のきっかけは、そのYouTubeやTwitterなどのSNSで発信した動画を見てくださったことだと思います。
どうしてSNSだったんですか?
まずは、ファンをつくりたかったんです。会社に所属してさまざまな作品に携わってきましたが、一般の方々の反応や評価というのは、個人ではなく作品全体に向けられたもの。そうではなく、一人のクリエイターとして知ってもらったり、評価してもらうことが今後もコマ撮りを続けていくうえで大切だと感じ、視聴者と直接コミュニケーションできるSNSを活用することにしたんです。
SNSではさまざまなキャラクターのフィギュアを使った動画を公開されていますが、どれも市販のフィギュアなんですか?
はい。「とにかく何かしなければ」という焦りもあって、自分で人形を一からつくっていると時間もかかるし、自分にはそんな能力もない…。じゃあもう最初から完成しているキャラクターやフィギュアを使えば、すぐにでもコマ撮りができるし、たくさんつくれると思ったんです。
もともとフィギュアが好きだった、というわけではないんですね。
そうなんです。ただ、好きなキャラクターのフィギュアを選んでいますね。その方が気持ちや熱意がのせられるので。「流行っているから」という理由でフィギュアを使ったこともあるんですが、ファンの方にはすぐバレてしまいますね。
でも流行っているモノの方が、多くの人に観てもらいやすいという思いはありますよね?
そうなんです。なので、そういう時はまず「キャラクターを好きになる」ことから始めるようにしています。
現在篠原さんの作品は再生回数100万回を超えるものもあり、
多くの注目を集めていますが、SNSを始めた当初はどうでしたか?
もちろん当時は今ほどではありませんでしたが、最初から500いいねもついて手応えがありました。実は、作品を投稿する前にちょっと工夫もしたんです。
どんな工夫ですか?
コマ撮りやフィギュアに興味がありそうな人たちとTwitterで交流し、あらかじめフォロワーを増やしたんです。「プロのアニメーターなのですが、フィギュアでコマ撮りしてみようと思っています」とツイートしたりして、少しづつ関心を集めるようにして、ある程度つながりができたところで、1本目の作品を公開したんです。
いきなり作品をつくって公開するのではなく、環境を整えるところからのスタートだったんですね!お仕事をしながらの取り組みだったと思いますが、SNS用の作品はどのくらいのペースでつくっていたんですか?
最初の頃は毎日UPしていて、仕事から帰って来てから徹夜で撮影・編集して、翌朝Twitterに投稿するなんてこともしていましたね。それから、YouTubeに投稿するようになった頃には毎週1本ペースで投稿していました。
寝る間も惜しんでつくられていたんですね。
そのモチベーションはどこから来るんでしょう?
一番大きいことは危機感。「何か行動を起こさなければ」という思いでしたが、継続できたのは、見てくださった方のコメントや「いいね」などを通じて、こんなに喜んでくれているというリアクションを直接感じられることですね。会社の仕事では見えなかったことが、SNSで初めて体験できたことです。もっと楽しんでもらいたい、期待に応えたいという想いがどんどん膨らんでいくんです。
まさにご自身の「ファン」が源泉なんですね。
現在も篠原さんの個人作品の投稿を続けているんですか?
はい。正確に言うと今はスタッフと一緒に制作しているのですが、若いスタッフたちの成長の場になればと思って活かしています。
若手の育成にも取り組まれているんですね。公開している動画には作品のメイキングも多くありますが、これもその一環ですか?
そこまで大げさなものではなく、コマ撮りをもっと一般の人にも身近に感じてもらえたらと思って。ただ、できれば見た人にコマ撮りにチャレンジしてもらいたいという気持ちもあります。スマホがあれば机の上で簡単にできちゃうので。
撮影・編集方法には、師匠から教わったものや独自で編み出したもの、色々あると思います。それを惜しげもなく公開してしまうのは、すごいですね。
みなさんにコマ撮りアニメの面白さを知ってもらいたい、コマ撮りを広めたいという気持ちの方が強いのかもしれません。僕自身、子どもの頃にアニメ制作現場のドキュメンタリー番組を見てすごくワクワクしたので、自分もそういう情報を発信できたらいいなと。
篠原さんの活動の根源には、「人を喜ばせたい、楽しませたい」という想いがあるんですね。
そうかもしれませんね。芸術家というより、エンターテイナーみたいなタイプだと思ってます。例えばサーカスみたいに、驚かせたいとか、パフォーマンスで楽しませたいですね。
もう一つ、「仕事になっても、子どもたちに見て欲しい」というテーマが学生時代からあるんですね。それは作品のストーリーづくりにも大きく影響していますね。子どもたちが、とてもピュアに、理屈抜きで喜んでくれる、それが好きなんです。もちろん大人の方々へ深い感動を届けるような作品もいつかつくってみたいです。
そんな篠原さんが、今後やりたいことについて教えてください。
メイキング動画の話とつながるんですが、つくっている現場を実際に見てもらいたいという思いはあります。例えば、僕自身が全国各地を転々としながら、みなさんの目の前でコマ撮りのつくり方を披露できたら楽しいなという夢があります。あとは、Animist(アニミスト)という名前でYouTubeで活動していますが、Animist完全オリジナルのキャラクターをつくって、コマ撮り作品にしたいとも思っています。
コマ撮りをしながら全国を回る!面白いですね!
では最後に自分の「好き」を仕事にしようとチャレンジする若い世代に向けてメッセージをお願いします。
みなさん自分の好きな仕事や、なりたい理想像があると思います。そこに辿り着つくためにやるべきことをやり抜いたり、流されないように…。信念を大切にして向かっていって欲しいなと思います。同時に、いま世の中で何が求められているのかも、しっかりアンテナを立ててください。その2つが重なるところがきっとあるはずです。それこそが、自分の「好き」を仕事にして続けていくための重要なヒントになると思います。