やりたいことがあるなら、やるべきだ。

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仲本さんは銀行にお勤めだったそうですが、学生時代は金融関係のお仕事に就くのが夢だったのですか?

仲本千津さんのサムネイル

いえ、そうではないんです。実は高校生の時に医者を目指していたのですが、どうしても数学が苦手で(笑)。じゃあ、進路をどうしようと考えた時に、授業で国連難民高等弁務官を務められていた緒方貞子さんのドキュメンタリーを見て、すごい衝撃を受けたんです。「日本人で、しかも女性で、こんな人がいるんだ!」と。同時に、紛争地域の人々を政策などで救う方法があると知って希望が持てたんです。私も緒方さんのようになりたいと思うようになり、国際関係論について学べる大学へ進学したんです。

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それがなぜ、銀行へ就職しようと思うようになったのでしょうか?

仲本千津さんのサムネイル

当時は「アフリカの貧困をなくしたい」とか、「失業率の問題を解決したい」とか、青臭いことを言っていました。しかし、そのために何をすれば良いのかわからなかったんです。民間企業、政府など多くのステークホルダーがいる中で、どうやって物事を進めていくのか答えが見つからなかった。だから、まずは社会の動きを知ろうと思って。それにはお金の回り方を見るのが良いと考え、銀行に就職したんです。また、当時は若手を積極的に海外へ送り出していたこともあり、チャンスがあれば私もアフリカに行こうと考えていました。でも、いざ入ってみると色々と自分の想像とは違っていました。

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どんな点が違ったのですか?

仲本千津さんのサムネイル

そもそも銀行は日本の事業会社が海外展開する際にいっしょに行き、ファイナンスを提供して日本企業をサポートする役割です。でも、私がやりたいのはアフリカにいる人たちに草の根で何かをサポートすること。だから銀行員としてアフリカに行くことは、やりたいことを叶えることにはつながらないのかなと。また、銀行のさまざまなルールや、考え方、社風などを実際に体感して、入社早々から「私は銀行員には向いてない」と感じるようになりました。
そんなもやもやを抱えていた時、東日本大震災が起きたんです。多くの人が志半ばで亡くなられていった現実を目の当たりにして、自分にはやりたいことがあり、できる状況にあるのだから、やるべきだと思うようになったんです。

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3.11が仲本さんにとって大きな転機になったんですね。

仲本千津さんのサムネイル

はい。銀行を2年半で辞め、農業支援の国際NGOに入りました。私の入った部署は財務、人事、広報となんでもやるところでとても忙しい日々でしたが、とにかくたくさんの経験ができました。はじめてウガンダへ行った時は、新たな農業技術を得て生活が変わっていく現地の人たちを見て、本当に感動しました。また、現地の女性たちはそれぞれの生活だけでなく、コミュニティ全体を支えていて、ウガンダの女性はとてもパワーがあるなと感じました。だから起業したときには、女性たちに声をかけたいって思いました。

ウガンダの女性の力強さについて話す仲本千津さん
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そんな千津さんを、律枝さんはどんな風に見られていたんですか?

母の仲本律枝さんのサムネイル

小さい頃から自分のやりたいことは自分で決めて進めてしまう子だったので、銀行を辞めてNGOに入るという話も、ほとんど事後報告でした。でも、私も主人も「あの子は馬鹿なことはしない」って信頼していたので止めませんでしたし、応援してあげたいと考えていました。それに実を言うと、私も主人も銀行を辞めると聞いた時「ああ、やっぱり」という思いはあったんです(笑)。ただ、「何かやってくれるんじゃないか」とも期待していましたね。

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千津さんのことを信頼なさっていたんですね。
千津さんがNGOでウガンダへ行き、RICCI EVERYDAYを立ち上げるまでにはどんな経緯があったんですか?

仲本千津さんのサムネイル

元々好奇心旺盛なタイプなので、ウガンダに着任して仕事をしながら、起業するアイデアを探していました。そんなある時、友人に誘われてウガンダのローカルマーケットへ行ったんです。
そこで床から天井まで壁一面にカラフルな柄のアフリカンプリントを積み上げたお店が何件も連なっているのを見て、魅了されました。友人と「アレも良いね、コレも良いね」と、まるで宝探しでもしている感覚でいろんな柄を見せてもらっていたら、あっという間に2、3時間経っていたんです。それからというもの、私を訪ねてウガンダに来てくれた友人を必ず連れて行くようになりました。すると私同様、みんな夢中で布探しを楽しんでくれたんです。
その時ふと、「アフリカンプリントでバッグを作ったら、日本で売れるかも」とビジネスを思いついたんです。でも私自身はミシンを扱えないので、代わりに縫ってくれる人を現地の日本人の知り合いに紹介してもらい、4ヶ月後にはウガンダ人の女性3名と私で工房を作りました。

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その時点では、まだNGOに所属していたんですか?

仲本千津さんのサムネイル

はい。日中はNGOの仕事で動けず、また1年のうち9割くらいウガンダに駐在していたので、日本で会社を設立したり、販売ルートを開拓してくれたりする人が必要でした。誰かいないか思いを巡らせた時、真っ先に浮かんだのが母でした。

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律枝さんはその話を聞いた時、「そんなこと無理!」って思われませんでしたか?

母の仲本律枝さんのサムネイル

それが、話を聞いて「楽しそうね!いいわよ」って、何も考えずに軽い気持ちで受けてしまったんです(笑)。

娘の話を前向きに受け入れた仲本律枝さん
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律枝さんは法人の立ち上げに関する経験や知識をお持ちだったんですか?

母の仲本律枝さんのサムネイル

いえいえ!何も知りませんでした。偶然知り合いに行政書士の方がいらしたので、詳しく説明してもらいましたが、私にはわからないことだらけで。とにかく「聞いたことを全部娘に伝えます!」という感じで、娘や行政書士さんに教えてもらいながら、どうにか2015年に日本法人を立ち上げることができました。

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すごいですね!先程、千津さんが「販売ルートの開拓も」とおっしゃっていましたが、こちらも律枝さんが?

母の仲本律枝さんのサムネイル

「あらそう、私が売るのね」と軽く受けたはいいものの、何もわからず、まずはお友達にご紹介することからです(笑)。お茶会を開いて20代〜60代の方々を年代別にお呼びして、バッグのサンプルを持っていただいたんです。そこで出てきた意見を娘に伝え、作り直したり改良したりしていくことで、新しいバッグも生まれたんです。私自身はもちろん、みなさんもとても可愛いと言ってくださって、「これは絶対売れる!」と思いました。

仲本千津さんのサムネイル

それだけじゃないんですよ。ある時買い物に行った先のデパートで、バイヤーの人を呼び出して、その場で商談の約束もしてきちゃったんです!

母の仲本律枝さんのサムネイル

たまたまデパートに行ったら、あるブランドがポップアップストアの出店をしていて、「私たちのバッグもこうやって売ったらいいんじゃないか」と思ったんです。すぐにインフォメーションセンターの方に「バイヤーの方とお会いしたいんですが」と話したら、本当にバイヤーさんが出てきてくださったんです。

仲本千津さんのサムネイル

きっと、いきなりお客様から呼び出されて「何事か!?」と思って出てきてくれたんだろうね(笑)。

母の仲本律枝さんのサムネイル

そうかもしれない(笑)。私は単に「この場所で、私たちの作る可愛いバッグを展示して販売できたらなんて素敵だろう」と思っただけなんです。バイヤーさんにアフリカンプリントで現地の女性たちが作っている私たちのブランドについてお話したところ、「丁度、ストーリーがあるバッグを探していた」とおっしゃるんです。そんな風にいくつものラッキーが重なって、ポップアップストアの出店が実現しました。お店は大盛況で、期間途中にも関わらず準備した在庫が全部売れてしまったほどでした。

商品を持つ仲本千津さんと律枝さん
仲本千津さんのサムネイル

他にも、母にはプレスリリースの配布もお願いしました。そうしたら番号案内の「104」に電話して地元のメディアの連絡先を片っ端から調べて、各社にFAXを送ってくれたんです。おかげでたくさんの方々から取材していただけました。

母の仲本律枝さんのサムネイル

私たちのブランドには色々な切り口があるんです。アフリカンプリントであること、ウガンダの女性たちといっしょに作っていること、親子で女性が起業していること。だからさまざまな方々に関心を持ってもらえたのだと思います。

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律枝さんの手腕、すごいですね!千津さんも驚かれたんじゃないですか?

仲本千津さんのサムネイル

もう素直に「お母ちゃんやるじゃん!」って思いました。正直、母にはお店での接客や、役所や銀行の手続きをやってもらえればいいくらいに考えていたんです。でも、母がデパートと話をつけてくれたので、展示会に出展した際にも「あのデパートでポップアップストアを出店することになっていて」と自信満々にPRできて、すごく助かりました。
私はそれで手応えを感じて、RICCI EVERYDAYに集中しようとNGOを辞めました。これまで専業主婦でビジネス経験のない母が、まさかここまでやってくれるとは、思いもよりませんでした。

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そんな律枝さんだったからこそ裏表なく想いを伝えられて、周りの人たちの心を動かせたのかもしれませんね。

支援ではなくビジネスだから、平等になれる。

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ウガンダでいっしょに働く女性たちの反応はどうでしたか?

仲本千津さんのサムネイル

すごく喜んでくれましたし、今ではもうみんな自分たちのバッグに自信満々です。私自身はウガンダでNo.1クオリティの商品を作っていると自負しています。自分たちが作った商品を日本に輸出し、それが何年も継続できているのは私たちの会社だけです。だからみんなこの仕事を誇りに思ってくれています。彼女たちの多くは生きづらさを感じるシングルマザーで「子どもを自分のようにはしたくない」と思っていますが、仕事がなく子どもを学校に通わせることができなかったんです。でも、RICCI EVERYDAYという仕事を得て、子どもを学校に通わせたり、親を病院に連れて行けたり、自分たちの力で家族を支えられるようになりました。「私が子どもを育てて、家族を養うんだ!もう男なんていらない。」と笑って話してくれるくらい、彼女たちの生活は改善しています。

ウガンダの工房のスタッフ
ウガンダの工房では、現在20名ほどのスタッフが働いている。ウガンダNo.1のクオリティを支える彼女たちの多くがシングルマザー。
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それはうれしいですね。RICCI EVERYDAYはウガンダでも法人設立していますが、現地での手続きはどうでしたか?

仲本千津さんのサムネイル

とにかく大変でした。ウガンダの法律はコロコロ変わるので、すべてを把握している人がいないんです。だからとにかく色んな人から聞いた話を総合して「たぶん、こうだろう」と目処をつけて進める以外手段がありませんでした。そんなことをしていたため時間がかかりましたが、日本法人の設立から遅れること1年、2016年にウガンダで法人を立ち上げることができました。

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NGOとしてウガンダの人々に関わっていた時と現在では、どんな違いを感じますか?

仲本千津さんのサムネイル

NGOのプロジェクトは、例えば5年で1億などと、期間も予算も決まっています。結果が出ようが出まいが、契約期間が経てばそこで終わり。あと少しで結実しそうでも延長しないこともあります。現地の方々だけで事業を継続できる体制を期間内に作りたいのですが、なかなか難しく。そのことが、現地の人には本当に申し訳ないと思っていました。それから、どうしてもお金を持っている人=支援する側と、お金をもらう=支援される側の構造ができてしまいがちです。私はそれがすごく嫌でした。でもRICCI EVERYDAYをはじめたら、その構造がなくなったんです。私は仕事を作れるけど縫製技術はない。ウガンダの女性たちは、縫製技術はあるけど仕事がない。この二者が補完しあい平等でいられる関係ができたんです。それがすごく気持ちいいんです!

ウガンダ女性と自分自身が補完しあいできたことを熱弁する仲本千津さん
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ビジネスだからこそ、平等な関係に立てるんですね。
今お二人が、起業しようと考えている人々に向けてアドバイスするなら
どんなことでしょうか?

仲本千津さんのサムネイル

やろうとしていることが、本当に自分のやりたいことかどうか見極めることは、とても大事です。起業すると大変なこともたくさんありますが、心折れずに、経験した困難を次の糧にできるかどうかが重要になると思います。「努力は夢中には勝てない」と言われますが、本当そう。夢中になると何をやっても楽しいので、そう思えることを見つけてほしいと思います。

母の仲本律枝さんのサムネイル

私は実家が魚屋で、「売れる時は必死に売って、売れない時期は次に何をするのか考えなさい」と言われてきました。どんな商売も波はあるけれど、その時にやるべきこと、できることを精一杯やることが大切なんだと、今まさに私自身も実感しています。

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最後に、RICCI EVERYDAYで叶えたい夢を教えて下さい。

仲本千津さんのサムネイル

フランスにシャネル、イタリアにグッチやプラダがあるように、RICCI EVERYDAYを、ウガンダという国を背負って世界に通用するブランドにしたいと思っています。そして、現地のたくさんの女性や色んな職人さんたちといっしょに、これからもずっとものづくりを続けられる環境を作っていきたいですね。

アフリカンプリントがされたバッグ
鮮やかな色遣いと独特な柄が個性的なアフリカンプリントで作られた「アケロバッグ」。「アケロ」とは「幸せを運ぶ」という意味をもつそう。