幼少期の自分を救った「母の愛」と「ロス食品」

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目取眞さんは「食」の分野にかねてから魅力を感じていたとのことですが、幼少期の好きな食べ物はなんでしたか?

目取眞 興明さんのサムネイル

水餃子です!食べることに幸せを感じる子どもでした。

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カレーではないのですね!意外です!

目取眞 興明さんのサムネイル

はい(笑)。私自身は沖縄で生まれ育ったのですが、母親は中国の出身で、よくつくってくれた水餃子が本当に美味しくて、私にとっての母の味ですね。私が小学校の頃、父が倒れてからは、母は朝から晩まで働き詰めでした。早朝に仕事に出かけた母親が、私たち4人兄弟のためにつくり置きしてくれたご飯を残さず食べようという気持ちでした。ご飯そのものが母親との大切なコミュニケーションであったように思います。

家族のエピソードを話す目取眞 興明さん
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お母さまの温かな想いが伝わる素敵なエピソードですね。それが、食への関心につながったのですか?

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大学は、食に関することを学べる所を無意識に選択していました。自分が楽しいと感じる仕事に就く未来の姿を漠然と描いていて、食がもたらす楽しさの体験がそうさせたのだと思います。大学で学んだのはフードバリューチェーンについて。当時は全く予想もしませんでしたが、いまの仕事にとても役立っています。

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大学卒業後の就職先は、意外にも調剤薬局や医療モールを開発する会社だったのですね。

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はい、希望の食品関連会社からは残念ながら内定をいただけなくて。他にも、食関連ではないけれど、自分が「面白い!」と思った会社を受けていました。
食べることに直接関係はなくても、食と健康の結びつきは深い。将来的に、この仕事での経験は役に立つはずだという思いもありました。

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新卒で入社した企業で得られた経験で、現在も役に立っていると感じているものについて教えてください。

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私が主に担当していたのは、患者さんに選ばれる薬局づくりのために、イベントを企画する仕事でした。全国の沢山の方と関わりながらゼロの状態から企画をつくり実行に移すプロセスは非常に勉強になりました。イベントで集客して、その後の顧客も増やせた成功体験は、自信になりました。

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調剤薬局の仕事の次は、ついに食に関する仕事に就かれるのですね。

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次は食に関する仕事に就きたいと考え、農業のベンチャー企業に転職しました。レタスなどの葉物野菜を室内工場で育てて販売する会社です。「営業がしたいです!」と社長に自分の希望を伝えたところ、「目取眞くんは、営業じゃなくてこの仕事がいいと思う」と言われたのが総務や人事労務の仕事でした。

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自分の希望とは異なる業務に就いてみて、どうでしたか?

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バックオフィスの仕事は営業職以上に社内メンバーとのコミュニケーションが必要な仕事であることに気づきました。なぜか、社内の皆がよく話しかけてくれて、確かに自分に合っていたと思います。人から言われてみて初めて気づくこともあるのだなと思いました。
ちょうど会社が急成長するときだったので、それはもう目の回る忙しさで。でも、その過程を目の当たりにし、起業に必要な事務的な手続きを学べたことは大いに役立ちました。

少し自分にも時間の余裕ができた頃、起業塾の先生とお会いする機会をいただいて。先生に「目取眞くんは、将来何がしたいの?」と尋ねられて、何も答えられなかったんです。「沖縄で起業して何かをしたい」という漠然とした思い以外、何も思い浮かびませんでした。もっと自分のやりたいことを言語化する必要がある、と思い起業塾に通うことを決めました。

起業について話す目取眞 興明さん
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起業塾では、どのようにやりたいことを見出したのですか?

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その塾は、ビジネスのノウハウを教えるのではなく、自身の内面を徹底的に掘り下げ、事業をつくることを大切にしていました。まず行ったのは自分の幼少期から現在までの出来事の棚卸し。その時に、自身の「食」を大切にする原体験が、子どもの頃の食卓にあったことに気づいたんです。

母に、「なぜ、当時ウチにはあんなに沢山食材があったの?」と聞いたら、「いつでも食べられるということは子どもの安心感、心の豊かさにつながるから、食べ物だけは切らさずに頑張ってたんだよ」と教えてくれました。その食材たちは、大きさや形のせいで販売できない野菜や魚、賞味期限切れのパンなど。捨てられてしまう食材をいただいたり、安く買うなどして母が手に入れてきたものだったんです。それが本来捨てられてしまうものだなんて当時は全く知りませんでした。

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20年の時を経て、ご自身の食卓を支えていた食材の正体を知ったのですね。

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はい。そこで、食品ロスのことを調べてみたら、年間600万トンを超える量が日本で捨てられていることが分かりました。子どものころの自分が救われたように、捨てられてしまうかもしれない食材を活用して何かビジネスはできないかと思いついたんです。当時は、SDGsという言葉もまだ知られていなくて、食品ロスをビジネスで解決しようとする企業もほとんどありませんでした。

そこで、ロスになってしまう「もったいない食材」を活用したイベント「もったいないまつり」の開催につながりました。

食品ロスと趣味のカレー。ひらめいたビジネスアイデア。

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「もったいないまつり」開催にあたり、大変だったことはありますか?

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最初、農家さんに規格外の野菜の無料提供をお願いしたら、断られてしまいました。後から知ったのですが、どんなに形が不揃いで規格外だとしても、それらも農家さんが丹精込めてつくった大切な野菜で、本当は売りたいもの。それを無料で譲ってもらうだけでは食品ロスのためになっても農家さんのためになっていないことに気づいたんです。それからは農家さんとのコミュニケーションをより密に重ねて、その想いをしっかり知ることを大切にしました。今では私のつくったカレーをSNSでシェアするなど、応援してくださるまでになりました。

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会社員の仕事と「もったいないまつり」のダブルワーク、大変だったと思いますが、なぜ続けることができたのでしょうか?

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自分のやりたいことだったので、むしろ楽しかったです!休日や有給を利用した活動は本業にしっかり集中して頑張ろうというモチベーションにもなっていました。

次第に「もったいないまつり」のことが知られてきて、自治体からの依頼もいただくようになったのを機に会社を退職して、起業しました。

食品ロスを有効活用するイベントの写真
食品ロスを有効活用するイベントとして目取眞さんが運営している「もったいないまつり」では、国分寺の農家さんから、形が不揃いなどの理由で出荷できなかったたくさんの野菜を提供して頂いている。もったいない食材をいただく「もったいないカフェ」も大盛況。
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会社を辞めて起業することに不安はありませんでしたか?

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まだイベントで十分に稼げる状況ではなかったので不安はありました。でも、これがダメでも働けるところは沢山あるし、まあ何とかなるんじゃない!?という気持ちでしたね。

いざ起業して、これからもっと「もったいないまつり」に力を入れていこうと思った矢先、新型コロナウイルスの流行が始まりました。難しかったイベント開催に代わり、力を入れることになったのがレトルトカレー事業です。

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ついに!ここでカレーが登場するんですね!

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はい。毎年、友人たちとの忘年会で、来年の目標を言い合うことが恒例行事だったんです。パッと思いついたのが、「1年間でカレーを100種類食べて、その感想などをSNSで発信する」ことでした。会社員ではカレーのお店を100軒めぐることは難しい。ならばレトルトカレーでやってみよう!と始めた活動です。

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レトルトカレーが事業アイデアと結びついたのはどのような経緯だったのですか?

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カレーを何種類も食べるからこそ、色々なことに気づきました。カレーには野菜や肉や魚、色々な食材が入っていること。また、どんな食材であってもそれらが見事に調和して美味しく仕上がっていることです。カレーはどんな食材にも合うすごさを持っている。これなら規格外の野菜などを活用してカレーがつくれるのではないか?と思ったんです。まさか趣味で食べていたカレーが事業に結びつくなんて思いもよりませんでした。

最初に開発したのは、おからのレトルトカレーです。ある時、お豆腐屋さんからおからについての悩みを聞きました。栄養素が含まれている食材にも関わらず、毎日100キロもの量を産業廃棄物としてお金をかけて廃棄していたんです。そこで、おからを活用したレトルトカレーを一緒につくりませんか?とお声かけをさせていただきました。

「もったいない食材」をレトルトカレーにしたBATON CURRY
BATON CURRYは、「もったいない食材」をレトルトカレーにして生産者と消費者とよりよい未来をつなぐ架け橋となるよう、多種多様な保存カレーを美味しく提供している。
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カレーを食べた方からはどんな反応がありましたか?

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「もったいない食材」のカレーをきっかけに、食品ロスの問題を意識するきっかけになったという声も。幼少期の私と同じ体験を、今度はカレーを食べた方がしてくださっているなと思います。
カレーをつくりたいと農家さんからのご相談や、さらに、学校関係者の方から、子どもたちへの教育のために商品を使わせて欲しいという要望もいただくようになりました。

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「いつか、沖縄で自分の事業をしたい」という目標は、実現しそうでしょうか?今後、やりたいことについても教えてください。

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沖縄の生産者さんからも規格外食材の活用について相談が来ていて、夢だった仕事が近い将来できそうです!
また、どんな食材にも合い、長期保存が可能で味にバリエーションがあり飽きないレトルトカレーは、防災時の非常食や貧困問題の解決にも役立つ可能性を感じています。日本のすべての市町村で、もったいない食材を活用したカレーをつくり、災害時に地元の方の非常食に役立てられれば、少しでも安心につながると思うんです。さらに、日本のレトルトカレーの魅力を全世界に伝えながら、世界の貧困問題の解決にも繋げていきたいですね。

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ありがとうございます。最後に、これから新しい挑戦をする若い世代に向けてメッセージをお願いします!

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最初からやりたいことが決まっている人は少ないと思います。私のように、ふとしたきっかけから、やりたいことや好きなことが見つかることもあります。まずは肩肘はらずに、小さくはじめてみるのがいいと思います。面白いと思えば続ければいいし、なんか違うな、と思ったら、また別のことにチャレンジをすればいいだけ。自分が好きなこと、苦手なことについて、なぜそう思うのか、しっかり掘り下げができた時、新しい未来が見えてくるはずです。