チャンスを掴み、「好き」を仕事に。

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保険業界で働かれていた國方さんですが、どうして「eスポーツ」という異色の業界にチャレンジされたんですか?

國方 雄佑さんのサムネイル

私はエンジニアのスキルも、クリエイターの経験も持っていません。でも、バイタリティとさまざまな業界とのビジネス経験には少し自信があります。そんな自分自身を見つめながら「本当に情熱を持って取り組める事業は何か?」と考えた時に真っ先に思い浮かんだのが、学生の頃からのめり込んでいたゲームに関する事業でした。中でもeスポーツ業界にはビジネスチャンスを感じました。私はスポーツの人気の指標として競技人口と視聴者人口に注目していて、今eスポーツはそのどちらも著しく伸びているんです。ゲーム業界自体もまだまだ成長していることもあり、「これはチャンスだ!」と思ったんです。

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それですぐにeスポーツチームを結成しようと?

國方 雄佑さんのサムネイル

実は、当初はチームを運営しようとは思ってなかったんです。当時考えていたのはeスポーツ大会のマッチングサービスや、eスポーツのコーチングサービスなど、業界のど真ん中ではなく周辺の関連サービス事業でした。

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それがなぜチーム運営をすることに?

國方 雄佑さんのサムネイル

どのアイデアも悪くはないと思っていましたが、ピンとくるものがなかったんです。そんなとき、「VALORANT(ヴァロラント)」というeスポーツタイトルが異様な熱気を帯びはじめていて、まさにブレイク直前という感じでした。そして、さらに同じタイミングで実績のある選手たちが、所属していたチームを離れて移籍先を探しているという情報が入ったんです。「チームをつくるなら今しかない!」と直感し、すぐに選手たちと連絡を取り、2021年12月にプロeスポーツチーム「IGZIST(イグジスト)」を発足しました。

プロeスポーツチーム「IGZIST(イグジスト)」のオブジェ
チームとして初参戦となった⼤会「2022 VALORANT CHAMPIONS TOUR – Challengers JAPAN Stage1」では国内 3 位を記録。運営会社が動画マーケティング会社である強みを⽣かし、多くの動画コンテンツを発信している新進気鋭のプロeスポーツチーム。
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そんな経緯があったんですね。eスポーツチームを立ち上げて1年目、特に苦労されたことはありましたか?

國方 雄佑さんのサムネイル

大変な1年でしたけど、どれも想定内というか。新規で参入するという時点で苦労は承知の上でしたし、客観的に見て順調に進んだ1年だったと思っています。私がポジティブな性格っていうのもあると思いますが、今は苦労よりも楽しさの方が勝ってますね。

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自分の「好き」を仕事にするって、そういうことなんですね。

國方 雄佑さんのサムネイル

そうかもしれません。私自身、今の業務に対して「仕事」という感覚がないんです。前職もすごく好きでしたが、「働くってこんなに面白かったんだ」ということを日々実感してます。

仕事の楽しさについて話す國方 雄佑さん
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実際に業界に参入してみて、eスポーツに対する想いに変化は?

國方 雄佑さんのサムネイル

当初は「ゲームが好き」ということと「業界にチャンスを感じた」ということが大きなモチベーションでした。でも今は、そこに「この熱さを一人でも多くの人に届けたい」という想いが加わりましたね。

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そう想うようになったのは、何かきっかけが?

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チームを設立してはじめての大きな大会で、国内3位という結果を出すことができたんです。その時の試合がものすごく緊迫したもので、勝ち方も劇的な逆転勝利。それで私は、思わず泣いてしまったんです。仕事で感動して泣くなんて、はじめてでした。それは私だけでなく他の従業員たちも周りで泣いていたんですよ。その光景を見た瞬間「あ、こういうのすごくいいな」って感じたんです。

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eスポーツが人の心を動かせると確信したんですね。

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そうなんです。大人になるとさまざまな面でお金が絡んできて、損得を考えながら勝負することが多くなるじゃないですか。でも、eスポーツはまだ市場が成熟しておらず、「プロスポーツ」というビジネスでありつつ良い意味での「部活」的な面も残っている。だから選手たちもピュアにパッションを持って戦っているし、視聴者も純粋に勝負を応援できる。そう思ったときに、「ゲームが好きだから」とか「チャンスがあるから」ということ以上に、「この熱さを一人でも多くの人に届けたい」という想いが湧き上がったんです。

プロeスポーツチーム「IGZIST(イグジスト)」の選手とスタッフ
チーム結成後、初の自社スタジオでのファンイベント後の選手と運営スタッフ。
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まさに青春的な熱さがあったわけですね。でも、やはりビジネスとしても成立させなければならないわけですよね。

國方 雄佑さんのサムネイル

はい。プロチームについては、今後生き残りが激しくなっていくと思います。今、プロチームの運営コストはどんどん上がっています。それはいいことですが、しっかりマネタイズできているチームは限られていると思います。支出は増えるけれど、収入がなかなか増えず、まだ投資フェーズのチームが多いと感じています。

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IGZISTでは、資金調達の面でどんな取り組みを?

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アパレルなどのグッズ販売やスポンサーの獲得、VC(ベンチャーキャピタル)※1の利用など、うちのチームに限らず、多くのチームがこうした方法で資金調達に取り組んでいます。近年はチームの合併やM&A※2も増えていて、私自身もチーム運営を次のステージへ進めるため、最近チームの親会社(株式会社STUN)を売却しています。※3 M&Aというとお金の話になりがちですが、新しい企業とのつながりができる点も大きなメリットなんです。相手は大きな企業で、私たちにはないたくさんのノウハウも持っています。それらはeスポーツチームを運営する上ですごくプラスになるもの。今後eスポーツ業界で、こうした積極的な合併やM&Aが進むのではないかと思っています。

  1. VC(ベンチャーキャピタル)とは、ベンチャー企業やスタートアップ企業など、高い成長が予想される未上場企業に対して出資を行う投資会社のことを指す。
  2. M&A(エムアンドエー)とは、「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略。一般的には企業の合併・買収を指す。
  3. eSports事業は株式会社STUNから分社化し、現在も國方氏がオーナー会社(株式会社BRBD)で経営を続けている。

起業に必要な経験は、起業で得る。

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そもそも、國方さんが起業しようと思ったのはいつ頃からでしょうか?

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学生の頃から「いつかは自分でビジネスを起こしたい」という想いがありました。だから、就活の際には起業家を多く輩出している会社をさがして、就職しました。

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学生時代から計画的に起業に向けた取り組みをしていたんですね。

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いえ、それがそうでもないんです。起業という志を持って就職したものの、徐々に収入も上がり、役職も付き、結婚や娘の誕生もあって、安定した暮らしに落ち着いていました。そして、気づけばもう30歳に。そんなある日、脳に動脈瘤が見つかったんです。危険性のあるものではなかったんですが、そのときはじめて「死」を意識しました。「今やらないと後悔する」という想いと、「娘に全力で挑戦している父親の姿を見せたい」という気持ちが背中を押して、ようやく本気で起業することにしたんです。

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安定を捨て、あえて挑戦の道を選ばれたわけですね。

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今振り返ると、もっと早いタイミングで起業しておけばよかったと、少し後悔しています。起業を考えているZ世代の若者にアドバイスするなら、とにかく早くチャレンジすることをすすめます。不安もあるでしょうが、失敗しても若ければ若いほどやり直しがききます。年齢を重ね、家族を持つと、背負う責任も大きくなり、どんどん腰が重くなりますし、体力的にも厳しくなってきますしね。

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起業してみて、事前にもっとこういう学びや経験をしておけばよかった思うことはありましたか?

國方 雄佑さんのサムネイル

財務の知識とかセールススキルとか、細かいことを挙げればきりがないんですが、そういう事も全部含めて起業に必要な知識と経験は起業でしか身につかないと思ってます。会社に勤めて、例えば1千万円とか1億円という金額を動かす大きなプロジェクトに携わっても、その金額ってただの数字でしかないんです。それがいざ自分の会社でとなると、一つひとつの数字の重みが全然違う。そうした環境で物事を判断するための知識や経験は、起業することでしか得られないんです。

起業することへのメリットについて話す國方 雄佑さん
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時間をかけて準備するより、実際に経験した方が早いと。

國方 雄佑さんのサムネイル

私はまさに前者の「時間をかけて準備」タイプで、「まだ準備期間だから」と先延ばしし続けてしまいました。もし今、大学生の頃に戻れたら、確実に学生起業します。もしかすると、いろんな経験をした結果、卒業して別の会社に就職することになるかもしれない。それでもいいんですよ。とにかく若いうちに、起業するってどういうことなのか、ビジネスを立ち上げるために自分に足りないものは何なのか、肌で感じることで大きく成長できるはずですから。

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國方さんがeスポーツビジネスを通して実現したい夢は何ですか?

國方 雄佑さんのサムネイル

日本からeスポーツのレアル・マドリードを誕生させることです!eスポーツは競技人口も視聴者人口もワールドクラスのスポーツですが、サッカーやバスケほどフィジカルに頼る競技ではありません。だから、世界No.1のチームが日本に誕生することは夢じゃないと思っています。そのためにも、eスポーツ市場をもっともっと盛り上げて、強い選手、強いチームが育っていく環境をつくっていきたいですね。