「ひまわり」は同居人へのプレゼントだった……

ゴッホ作品「ひまわり」
▲ゴッホ「ひまわり」1888年 SOMPO美術館

―小林さん、前回はゴッホの人物像について伺いました。今回は、ゴッホが描いた作品について聞かせてください!

小林:はい、よろしくおねがいします。

―ゴッホの代表作といえば、どんなものがあるんでしょうか?

小林:まずは、何を差し置いてもSOMPO美術館にも展示されている「ひまわり」ですよね。「ひまわり」はゴッホ自身も代表作だと言っています。実は生前から"ゴッホ=ひまわり"というイメージがあって、ゴッホのお葬式ではひまわりや黄色い花々が飾られていたそうです。他には、「星月夜」「アイリス」「糸杉」「ジャガイモを食べる人々」……といった作品が有名です。特に「星月夜」はサン=レミの療養院に入院した後のものが有名ですが、入院前からずっと描いていたんです。グルグルなところがいいですよね(笑)。

ゴッホ作品「星月夜」
▲ゴッホ「星月夜」

―「ひまわり」は、僕も知ってます!SOMPO美術館のアイコンとも言える「ひまわり」は、どんな経緯で描かれた作品なんですか?

小林:よく知られる、花瓶に生けたひまわりの絵は全部で7点あります。ゴッホとゴーギャンは共同生活を送っていたのですが、ゴーギャンを迎えるにあたって彼の部屋を飾るために描いたんです。それ以前にゴーギャンが、ゴッホが描いたひまわりの絵を気に入ったという経緯があったので。SOMPO美術館にあるのはその頃描かれた1枚をのちに自身で複製したものですが、オリジナルと比べて塗り方や色使い、コントラストなどをあえて変え、試行錯誤をしているんです。

「リアルじゃないけどリアル」言語化不可能なゴッホの絵

インタビューに応じる学芸員

―ゴッホの描いた絵には、どんな特徴があるんでしょうか?

小林:一般的に言われるのは、明るい色使いや、絵具をたっぷり使った「厚塗り」ですね。でも私個人は、リアルじゃないけどリアルという点が特徴だと思うんです。

―リ……リアルじゃないけどリアル……とは、どういう意味ですか……??

小林:「ひまわり」も実はかなりデフォルメされていて、グニャグニャと歪んでいるんですよ。実際あんなひまわりは存在しないはずなのに、なぜかとてもリアルなひまわりに見えてしまうんです。他の作品でも、晩年にかなりグニャグニャな教会を描いています。それでも現地へ行き、実際にモデルになった教会を見ると「あっ、ゴッホの絵の教会そのものだ」とすぐに分かるんです。なぜそんな絵が描けるのか、私には説明することができません……(笑)。

―確かに……!言われるまで、グニャグニャであることにも気づかなかったほどです!

小林:ゴッホは3次元の現実をそのまま写実するのではなく、いかに2次元の絵画作品として完成度の高いものに変換するか……に、こだわっていたんだと思います。「ひまわり」も実は花の真ん中が赤く塗ってあるんです。そんなひまわり、ないですよね(笑)。でもゴッホは赤くした方が二次元の絵として引き立つと考えたのではないでしょうか。

本当は怖い!?ゴッホの絵

ゴッホ作品「耳に包帯をした自画像」
▲ゴッホ「耳に包帯をした自画像」

―美術オンチの僕ですが、ゴッホが日本の浮世絵に影響を受けた……という話はどこかで聞いたことがあります。具体的にどのような影響を受けたんでしょうか?

小林:そもそも日本画と出会ったのは、ゴッホが一時期住んでいたベルギーでのことだったと言われています。当時ヨーロッパにはすでに日本画を専門に取り扱う画商も、ちらほらあったんです。そうした店で手に入れた浮世絵を参考にし、色使いや、ふちどりを太くしっかり描く点、平面感などは大いに影響を受けています。当時同じように浮世絵から影響を受けた画家は何人もいましたが、ゴッホは比較的すんなりと自然に浮世絵の技法を自分のモノにしていたと思いますね。

―小林さんにとって、ゴッホの絵とはどんな絵でしょうか?

小林:きれいだとか、かわいいと思う人も多いでしょうが、実は私個人はゴッホの絵が怖いんですよ(笑)。怖いところが最高の魅力だと思っています。だって、自分の耳を傷つけて、包帯を巻いたところを自画像に描くなんて、ちょっと考えられないですよね……(笑)。耳を傷つけ入院し、退院した直後にも「皿とタマネギのある静物」というすごく明るい絵を描いていて、「なぜ!?」って思うんです(笑)。そういう得体の知れない奥深さも、ゴッホ作品の魅力ではないでしょうか。

【その3】へつづく~

SOMPO美術館
「ゴッホと静物画―伝統から革新へ」

ゴッホと静物画展の様子

※本展示会は終了しました。
会期:2023年10月17日(火)~2024年1月21日(日)
開館時間:10時~18時(ただし12月8日(金)は20時まで)
※最終入場は閉館30分前まで
会場:SOMPO美術館
〒160-8338 東京都新宿区西新宿1-26-1
(アクセス)
JR新宿駅西口、丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、大江戸線新宿西口駅より徒歩5分