生前売れた絵はたったの2枚……勝ち組ではなかったゴッホ

インタビューに応じる学芸員

―小林さん、初めまして。実は僕、美術オンチで学校では美術が一番の苦手科目でした。ゴッホとゴーギャンの違いもよく分からない男なのですが……ゴッホが今、盛り上がっているということで、ゴッホについて教えてもらってもいいでしょうか……?

小林:わかりました。どうぞ、よろしくおねがいします!

―まず、ザックリした質問で恐縮ですが、ゴッホってどういう人なんでしょうか?

小林:フィンセント・ファン・ゴッホは1853年、オランダのズンデルトで生まれました。画家になったのは27歳と、かなり遅いデビューだったんです。最初は画商でマジメに働いていたのですが、やがて嫌気が差したのか、辞めてしまいます。その後英語の先生や本屋さんをしましたが長続きせず、やがて牧師を志しました。ところが牧師になるための試験にも落ちてしまいます。この時、神様の言葉を伝え、人々を救うことは絵画にもできるのではないかと考え、画家になったんです。

―色々と寄り道して、やっと画家になったわけですね。そしてメキメキと頭角を現して人気画家に……?

小林:いえ、諸説ありますが、生前に絵は2枚しか売れなかったというのは有名な話です。

―に…2枚ですか!?有名画家なので"勝ち組"かと思っていたのですが、けっこう苦労人なんですね……。

小林:テオという弟がいて、彼も画商だったのでいろいろサポートしてあげたものの、あまり売れなかったようで…。ただ晩年、亡くなる2~3年前頃から徐々に評価は高まっていたようです。

耳を切り、手を焼き……ゴッホは本当に変わり者?

ゴッホと静物画展の様子

―ゴッホは変わり者だったという話も聞いたことがあるのですが、本当でしょうか?

小林:一般的によく取り上げられるエピソードには激しいものが多いですよね。ゴーギャンとケンカした果てに自分の耳を傷つけたとか、一方的に好きになった相手の家に行ってランプの火に手を突っ込み、「私が耐えられる間だけでも会わせてほしい」と両親に迫ったとか……。

―こ……怖い!何やってんですか、ゴッホは!?

小林:ただ、こうした物々しいエピソードは、彼のほんの一面を表しているに過ぎないと思います。実際はインテリタイプで語学も堪能……母国のオランダ語以外にも英語やフランス語に長けていました。また非常に読書家だったようで、ゾラやモーパッサンといった当時の自然主義文学を好んでいたようです。絵画に対してもすごく研究熱心で、情報収集や試行錯誤を重ね、理論的に絵を描く学者肌でした。

―そうなんですね……。意外な一面が見えてきた気がします。

小林:芸術家にはディオニュソス的な人物アポロン的な人物がいると言われます。ディオニュソスはお酒の神様で、乱痴気騒ぎが大好きな、感情に任せて作るタイプです。アポロンは秩序を重んじる神様で、理知的で研究熱心。私はゴッホは間違いなく後者だったと思っています。ちなみにゴッホは日本オタクで、日本に憧れるあまりフランスのアルルに疑似日本を作ってしまうなど、チャーミングな一面もあるんですよ(笑)。

【その2】へつづく~

SOMPO美術館
「ゴッホと静物画―伝統から革新へ」

ゴッホと静物画展の様子

※本展示会は終了しました。
会期:2023年10月17日(火)~2024年1月21日(日)
開館時間:10時~18時(ただし12月8日(金)は20時まで)
※最終入場は閉館30分前まで
会場:SOMPO美術館
〒160-8338 東京都新宿区西新宿1-26-1
(アクセス)
JR新宿駅西口、丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、大江戸線新宿西口駅より徒歩5分