登山でのクマ対策とは?
今年から健康のために登山を始めました。先日初めて「クマ出没注意」の看板を見ました。滅多にないとは思いますが、万が一クマに遭遇した場合はどのように対処すればいいのでしょうか?また、登山においてできるクマ対策などあったら教えてください。
クマは基本的に人間を避けたいのです
●クマに会わない方法は
まず理解していただきたいのが、クマは基本的に人間が怖くて、人間に会いたくないということです。本州以南ならツキノワグマで、彼らはドングリなどを好む、草食に近い雑食動物です。人間など大型哺乳類を獲って食べようなどとは、ゆめゆめ思ってはいないはずです。人間の方は生活の糧として、彼らの肉を食い、皮を利用し、内臓を薬にしてきた歴史がありますから、とにかくクマは人間のことが怖くて、できるだけ会いたくないのです。
私たちの存在を知らせてあげれば、クマは向こうから避けてくれます。山はもともとクマが棲む所。山では私たちが外来者です。山の中でよく「クマが出た!」と大騒ぎになりますが、客観的にみれば「人が出た!」というのが正しいのかなと思います。 人の家に入るときにノックぐらいするつもりで、クマ鈴やホイッスルなどで「これから行きますよー」と知らせてあげてください。ちなみにクマ鈴のような波長の音は、クマが聞こえやすいそうです。(たまに携帯ラジオをつけっぱなしの方がいらっしゃいますが、これは他の登山者の気分を害してしまうかもしれませんので注意しましょう)
クマに会った方のほとんどが単独行動です。多くても2~3人で、それ以上の人数だと、気配でクマは気づいてくれるようです。カナダのトレイルでは、「クマが活動しているので6人以上のパーティーで」と入口に立て札が立っていることがよくあります。またごく稀に、残飯などで人間の食べ物の味を覚えてしまったクマや、若い雄で怖いもの知らずのクマは、普通のクマより行動が大胆な場合もあります。しかし基本的な備えと対処は、普通のクマの場合と同じです。
●もしクマに会ってしまったら
たまたま視界が悪く、向こうが風上で、こちらは少人数で鈴もなく…というときに、不幸にしてクマと接近遭遇してしまう可能性はあります。そのときに一番大切なことは、クマをパニック状態にさせないことです。大声や、走り出すのは禁物です。クマは人間の大声や急な動作でパニックになると、イチかバチかの防衛行動で襲ってくることがありますし、走る速さでは人間はとてもかないません(時速50kmくらいで走るという説もあります)。
木に登って逃げても、相手は普段から木に登ってドングリを食べている木登りのプロですから数段上です。よく言われる「死んだふり」は、クマは転がっているものをひっくり返して調べる性質がありますから、あの手でゴロンとやられるだけで相当な深手を負いそうなので、効果がありません。一番いいのは、黙ってそっと後ずさりしながら、その場を静かに離れること。クマも逃げるタイミングをうかがっていることが多いようです。
最後にそれでもクマがパニックになって襲ってきてしまったら…最後の砦として、熊スプレーというものが市販されています。唐辛子エキスでクマの攻撃能力を奪うもので、唐辛子成分ですからクマも数日で元に戻るようです。ただし噴射距離は長いものでも10m。こちらが風下だと、自分がやられてしまいます。
以上のことからこちらから攻撃を仕掛けるようなものではけっしてなく、その場を去るのが基本。あくまでも最後の手段です。私たちはガイドですから、クマの生息域に入るときはザックに下げていますが、一般の方もそのような場所に少人数で行くことが多い方は、念のために熊スプレーを携帯してもいいかもしれません。
また、一番危険なのは子グマです。子グマがいれば、必ずそのそばに母グマがいると思ってください。母グマが子グマを守ろうとする気持ちは、人間もかなわないくらいです。子グマに近づいたり、位置的に母グマと子グマの間に知らずに入ってしまっただけで、母グマは子グマを守ろうとして「攻撃」してきます。子グマを見たら観察しようとせずに、すみやかにその場を離れてください。
ネイチャーガイド 橋谷晃
正しい知識とルールで、大自然を満喫しましょう!
自然を楽しむトレッキングなどを開催するスクールの代表として、初心者の皆さんと 年間100日ほど、山の自然を楽しんでいます。安全で楽しい自然との付き合い方を学 んで、大自然をエンジョイしましょう。
【URL】 | ネイチュアリング・スクール「木風舎」http://www.mokufusha.com/ |
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【メディア】 | NHK教育テレビ「チャレンジ!ホビーあなたもこれから山ガール」に講師 役としてレギュラー出演したのをはじめ、テレビ東京、J-WAVEなどテレビ・ラジオ 番組に出演多数。 |
【著書】 | 『チャレンジ!ホビーあなたもこれから山ガール』(NHK出版)、『トレッキ ングのABC』『失敗しない山道具選び』(山と渓谷社)、『ネイチャースキーに行こう』 (スキージャーナル)、など多数。 |
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