赤ちゃんの貧血
みなさんご存じの通り、生後から1才までを乳児と表現します。特に生まれた直後は、「赤ちゃん」の名前の通り、ヘモグロビンの濃度も高く体も真っ赤です。元気な赤ちゃんを見ていると、貧血とは無縁に思われるかもしれません。でも、赤ちゃんも貧血になることがあるのです。
新生児期を過ぎた赤ちゃんの貧血が起こりやすい時期は、その原因も関連して大きく2つに分けられます。それぞれ、①生後2~3週間から2ヶ月頃までに起きやすい生理的貧血(および未熟児早期貧血)、②生後5~6ヶ月ごろから離乳の完了する2才頃までに見られる鉄欠乏性貧血です。未熟児あるいは先天的な病気など、特殊な原因による貧血もあり得ますが、今回は割愛させていただきます。
赤ちゃんは自分で何かを訴えかけることはできません。このため、顔色が悪い、結膜や爪が白っぽい、あるいは活気がない(哺乳力が弱い)、といったことから貧血が疑われたら、血液検査で確定診断を行います。
生理的貧血、(未熟児の)早期貧血
生まれる前、お母さんのお腹にいる時の赤ちゃんは、肺を使って呼吸をすることができません。必要な酸素は、胎盤からの血液に頼らざるを得ないのです。少ない酸素を何とか体中に運ぼうとしていますから、赤ちゃんの血液は酸素を運搬するのに適した「濃い」状態になっているのです。ですから、生まれた時の赤ちゃんは真っ赤です。生後直後の赤ちゃんは、ヘモグロビン濃度にして20g/dl近くあります。
ところが、生まれてからの赤ちゃんは、自分の肺を使って一生懸命に呼吸を始めます。十分な酸素を取り込むことができるようになりますから、赤ちゃんの体の中では血液を作り出す必要が一時的になくなります(エリスロポエチンというホルモンが関わっています)。しかも、体も少しずつ大きくなりますから、血液全体の量も増え、全体としてみれば血液はうすまって、ヘモグロビン濃度も低下するわけです。結果として、2~3ヶ月ごろには一時的な貧血になりやすいのです。
通常であれば自然に回復しますし、健康な状態でも起こることですので、この一時的な貧血は、生理的貧血あるいは新生児貧血と呼ばれています。ただし、未熟児で生まれた赤ちゃんの場合、成熟児に比べて成長が著しいことや、生まれ持った鉄分も少ないことから、時には輸血や赤血球の産生を促すホルモンによる治療が必要となることもあります。言葉をしゃべることができませんから、未熟児で生まれたという経歴(問診)や、哺乳力の低下などから気づかれることがあります。
乳幼児の鉄欠乏性貧血
早すぎる離乳食はアレルギーの原因につながるのではないかとも言われていますが、首もしっかりと座った生後5ヶ月頃、そろそろ離乳食を始める時期です。離乳食を開始して、生後6ヶ月から2才までに多くなるのが、鉄分不足による貧血です。もともと赤ちゃんの体の中には、お母さんからもらった鉄の貯金がありますが、生後半年もするとこの貯金も底をついてきますし、体が大きくなるにつれて必要な鉄分も増えています。当然、それまでの鉄の貯金だけでは補うことができませんから、自分の力で鉄分を補うこと、つまり赤ちゃんも食事(離乳)が必要となるのです。貧血を予防するための離乳食として、レバーやひじき、ほうれん草などもあげてください。
なお、それまでに母乳(あるいは粉ミルク)で育ったこともあって、牛乳も離乳食に用いることがあると思います。しかし、牛乳は水分が多く、赤ちゃんが飲むことのできる量は限られていますから、それだけでは成長に十分な鉄分を吸収することができません。このため、離乳食に牛乳ばかりをあげていると、鉄欠乏性貧血になりやすいのです。特にそれまでに母乳栄養で育った赤ちゃんや、未熟児で生まれた赤ちゃんには鉄分が不足しがちです。
ところで、粉ミルクのテレビコマーシャルを見たことって、ありますか? 日本では母乳育児を放棄するのではないかという懸念もあって、粉ミルクのテレビコマーシャルは禁止されているそうです。母乳には栄養素が豊富に含まれていますし、赤ちゃんとお母さんのスキンシップにもつながることからも推奨されていますが、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス)を代表とする感染症や、母乳の出が悪いなど、様々な理由のために赤ちゃんに母乳を与えたいのに与えることができないお母さんもいらっしゃると思います。そうした場合でも粉ミルクを与えてはいけない、ということはありません。くれぐれも誤解のないようにしてくださいね。