新生児期とそれ以降を境にして、貧血の様相は大きく異なります。新生児期に見られる貧血は、その大部分が溶血性貧血と失血(出血)によるものです。乳幼児期以降の小児では、体の成長に対して鉄分が不足するため、あるいは思春期を迎えた女の子では、月経(出血)のための鉄欠乏性貧血が大きな要因です。
また、感染症や免疫異常、時には白血病に伴うこともあります。年齢・成長によって、貧血の原因や病態が多岐にわたるのも、小児貧血の特徴と言えるかもしれません。今回のシリーズでは、小児貧血の中でも比較的多い病態、あるいは特徴的な貧血について解説したいと思います。
新生児の貧血(血液型不適合、新生児メレナ)・・・今回 乳幼児の貧血(生理的貧血、鉄欠乏性貧血)・・・2回目 思春期の貧血(成長と鉄分、スポーツ貧血)・・・3回目
新生児期の貧血
生後4週間までの赤ちゃんを新生児と表現します。この時期の貧血は、お母さんと赤ちゃんの血液型不適合による溶血性貧血、あるいは腸からの出血(新生児メレナといいます)が原因であることが多いです。
<血液型不適合妊娠> お腹の赤ちゃんの血液と、母体の血液が直接混ざることは通常ありません。ところが、何らかの原因(※)によって赤ちゃんの血液が母体の中に入り込んでしまうと、母体の免疫システムは赤ちゃんの血液(赤血球)を異物だと認識してしまいます。その結果、赤ちゃんの血液に対して攻撃を加えてしまう抗体が作られてしまいます。
抗体は胎盤を通過しますから、赤ちゃんの赤血球を破壊してしまいます。血液が溶ける、つまり溶血性貧血と呼ばれる所以です。生まれた直後から貧血になりますが、皮膚や眼の粘膜が黄染(おうせん)する、黄疸(おうだん)が唯一の症状です。
血液型にはABO式、Rh式がよく知られていますが、日本ではRh不適合よりもABO不適合による貧血が多いとされています。お母さんの血液型がO型で、赤ちゃんがAないしB型で、ABO式血液型不適合が起こった場合には、稀に重症化することもあり交換輸血なども必要となることがありますが、多くの場合には軽症です。血液型不適合は診断・治療法が確立されており、すでに予防することに着眼点が置かれています。
(※)前置胎盤からの出血、常位胎盤早期剥離、梅毒などの胎盤感染症などによって血液型不適合を起こす可能性が示唆されています。その他、人工妊娠中絶・流産なども原因となることがあります。
黄疸について
赤血球には、黄色のビリルビンの元となる緑色のビリベルジンという物質が含まれています。健康な状態でも、古くなった赤血球が脾臓で壊されて、中に含まれる鉄分やアミノ酸などはリサイクルされます。ビリルビンも肝臓で代謝をうけて、最後には便に含まれて体外へ排泄されます。ところが、溶血がひどいと、ビリルビンの代謝が間に合わず、血液中にビリルビンがあふれてきます。これが溶血による黄疸の正体です。ちなみに、ビリベルジン、英語ではbiliverdinと表記しますが、bileとは胆汁、verdeはイタリア語で緑色のことです。サッカーチームをイメージした人もいらっしゃるのでは・・・?
<新生児メレナ> もう1つの新生児貧血の要因であるのが新生児メレナです。血液の凝固に関連したビタミンKの不足を代表とする新生児出血傾向、あるいは消化管そのものの炎症や潰瘍などのために出血をきたした状態を新生児メレナといいます。新生児メレナは生まれた直後に起こることは少なく、24時間~5日目ごろに吐血・下血をきたします。一時的なビタミンK不足が主な要因として考えられており、現在では予防として産科医院入院中のビタミンKシロップの内服が定着していますので、新生児メレナは少なくなっています。消化管そのものの病気であれば、それに応じた治療が必要です。
<仮性メレナ> 分娩時に胎盤などの血液をあやまって飲み込んでしまい、出生直後に吐血あるいは便に血液が混じることがあります。出てきた血液を検査して、成人由来のヘモグロビンであることが確認できれば、赤ちゃんの病気ではないことが判明します。この場合、病気ではないために仮性メレナと表現します。仮性メレナであれば、特に治療は必要ありません。