血液検査と原因の把握
貧血症の分類には、(1)赤血球恒数(せっけっきゅうこうすう)による分類、(2)成因(原因)による分類、この2つの方法があります。前者は血液検査のデータを用いて、赤血球の大きさやヘモグロビン量などによって分類する方法で、大まかな貧血の種類・治療方針を考慮するのに役立ちます。後者は、原因そのものを把握するための方法です。例えば、女性に多い「鉄欠乏性貧血」は成因の特定できた病名であって、前者の赤血球恒数による分類では、「小球性低色素性貧血」に相当します。
貧血の原因は様々なものがありますので、赤血球恒数によって大きく分類し、そこから得られた情報を基にして更に成因をつきとめていく、というのが一般的な治療方針の立て方です。具体的なお話をしますと、血液検査で貧血と診断された場合、血液に含まれている赤血球の平均的な大きさを計算して、小さい、中くらい、大きい、の3つに分けます。
血液検査データの見方
平均的な赤血球の大きさは、MCV(平均赤血球容積)と呼ばれ、同時にヘモグロビン濃度の平均値(MCHC:平均ヘモグロビン濃度)を計算することで、赤血球の大きさによる貧血の分類が完成します。
MCV = ヘマトクリット(Ht) ÷ 赤血球数 (RBC) 80~100(単位:fl) MCHC = ヘモグロビン濃度 ÷ ヘマトクリット値 (単位:%)
MCV 80以下かつMCHC30以下・・・小球性低色素性貧血 MCV 80~100かつMCHC31~35・・・正球性(正色素性)貧血 MCV 101以上かつMCHC31~35・・・大球性(正色素性)貧血
なお、「正色素性」という言葉は省略するのが慣例です。この分類法は診断の上での1つの目安ですから、この数値の通りには分類することができないこともあります。慣れないと少しややこしいかもしれませんが、血液検査データをお持ちのかたは、今の項目が書いてあると思いますので、ご自身のデータを確認してみましょう。それではここで、具体的な例を挙げてみます(単位の計算は省いて表示します)。
例:30歳の女性。赤血球数330万/μl ヘモグロビン濃度 7.0 g/dl ヘマトクリット値 25%・・・ MCV = 25 ÷ 330 = 75.8 MCHC = 7.0 ÷ 25 = 28.0 (単位:%)
MCVは80以下で、かつMCHCも30以下ですから、この場合には小球性低色素性貧血、と判明しました。この場合、年齢・性別から最も頻度が多いのは鉄欠乏性貧血であり、鉄に関連した血液検査を追加することで確定診断(成因による分類)を行うと同時に、鉄剤による治療を開始します。数日後に判明する結果を待ったうえで治療開始、ということでも良いかもしれませんが、貧血の程度や全身状態・鉄欠乏が原因である確率の高さなどを考慮すると、治療しながら結果を待ち、原因が他に疑わしい結果であれば更に検討する、ということが多いと思います。