「遠くを見るように」とよく言われるワケ

よく、「運転中は遠くを見るように」と言われます。もちろん、これは正しいのですが、なぜこれが正しいのかを考えたことはあるでしょうか?

運転中に「遠くを見る」のには、いくつか理由があります。

遠くの交通状況を知るため
ハンドル操作を安定させるため
目線を安定させるため
余計な情報を目に入れないため

「遠くの交通状況を知るため」というのは、すぐにイメージできるところでしょう。では、そのほかの3点は?実はこの3点、すべて核心は同じです。

運転席からの風景

運転が上手な人は、視点もハンドル操作も安定していて無駄がありません。これは、「見るべきところ」がわかっているから、運転中に自然と「目からの情報」を取捨選択しているのです。

運転に慣れない人は、「前からクルマがきている」「歩行者が横切りそう」「真横に人が立っている」「遠くにバイクがいる」……と、視界に入る情報のすべてが気になって、目線が落ち着きません。どの情報にどう対処していいかも迷ってしまうため、気持ちも焦ってしまいます。

「情報の重要度」を考えてみよう

では、考えてみてください。今、信号のある交差点を直進しようとするとき、「左側の横断歩道を渡る人」と「右折しようとしている対向車」では、どちらがより重要でしょうか?

もちろん、歩行者の動きを察知することも大事です。でも、重要度の高いのは「右折しようとしている対向車」のほう。目に入ってくるすべての情報に過敏に反応して、アタフタしてしまっては、落ち着いて運転できません。日頃から、情報の重要度・優先度を考えるクセをつけると、落ち着いた判断ができるようになるはずです。道を歩いているときも、周りの交通状況を気にしながら歩くと、訓練になります。

交差点を走る車両

とはいえ、「言うは易く行うは難し」です。頭では理解できても、実践するのは簡単ではないでしょう。そこで意識すべきことが、「遠くを見る」なのです。

目線を遠くに置けば、自然と「真横に立つ人」は気にならなくなりますし、「遠くにバイクがいる」もいまこの瞬間の自分と関係のないことだと判断する余裕ができます。また、「横からの飛び出し」も早めに察知することができて、落ち着いて対処できるでしょう。

運転上手の目線は「上下」に動かない

「遠くを見る」コツは、目線を「上下に動かさない」こと。運転の上手な人は、苦手な人と比べて、運転中の目線の「上下移動」が少ないことがわかっています。つまり、常に(一定の距離の)遠くを見ているのです。

車を運転する女性

視点の上下移動が多いと、目の前の黄色信号に焦って急ブレーキを踏んでしまったり、真横にいる歩行者などが気になってハンドル操作がフラフラしてしまったりします。

また、運転初心者は「怖いから」と近くを見てしまいがちですが、クルマは時速40km/hでも1秒間で11mも進みますから、近くを見てハンドル操作をしてもクルマはフラフラするだけ。10m先、20m先での安定のために目線を遠くに置くよう意識しましょう。

「遠くを見る」とは具体的にどこを見る?

では、具体的にどこに目線を合わせればいいのでしょうか?「できるだけ遠く」といっても、市街地と郊外では見える「遠く」も変わってきます。

まずは、正しいドライビングポジション(運転姿勢)を取って、まっすぐに前を向きましょう。そして、下(近く)を見ないように、遠くの信号にいち早く察知できるようにと意識しながら運転すると、近くが気になりすぎず、遠くに目線を置くことができます。何台もクルマが連なっているようなときには、「前のクルマ」ではなく「2~3台前のクルマ」を見るようにして、予測するのも、有効です。

道路を走行する車両

ここで大事なのは、目線を上下に動かさないよう意識すること。そうすれば、真上で信号が青から黄色に変わっても気にならなくなりますし、「車線をはみ出さないかな」と不安に思うことも少なくなるでしょう。

「突然、歩行者が飛び出してきたらどうするの?」と思うかもしれませんが、目線が散り散りになるよりも、水平移動を意識していた方が察知しやすくなるはずです。

「正しいドライビングポジション」を取ろう

ドライビングポジションとは、その名の通り「運転姿勢」のこと。出発する前に、シートの位置や角度、ハンドルの高さを調整して、運転しやすい姿勢を取ることが大切です。

運転席に座ったら、まずブレーキペダルを思いっきり置くまで踏み込みます。ここで、奥まで踏み込めなければ、踏み込める位置までシートを前に出し(スライドさせ)ましょう。次に、アクセルペダルとブレーキペダルの「踏み変え」がラクにできるかをチェックします。やりにくいようであれば、シートが近すぎるのかもしれません。

運転席に座る女性

ペダル操作のしやすい位置に合わせたら、次は背もたれ(リクライニング)の調整です。ポイントは、ハンドルが操作しやすいかどうか。ハンドルが遠すぎると、いざというときハンドルから手が離れてしまい、近すぎるとスムーズな操作の妨げになります。

現代のクルマの多くは、シートの上下調整機能(ハイトアジャスター)がついています。運転が得意でない人は、もっとも高い位置にセットしてみると、遠くが見やすくなって良いでしょう。

運転席の座席

スライドもリクライニングも高さも、ある程度調整したら試運転してみて、微調整を繰り返しながら、ベストポジションを見つけてみてください。これが「正しいドライビングポジション」です。

もっともシンプルな運転上達のコツ

運転において「目線の置き方」は、とっても大事。運転が上手な人と苦手な人との「もっとも大きな違い」が「目線の置き方」であるといっても過言ではありません。

目線を「遠く」に置き、上下の動きを少なくする。それができるようになるだけで、自然とハンドル操作やペダル操作が安定し、焦らず落ち着いて運転ができるようになってきます。「言うは易く行うは難し」ではありますが、運転する際は「目線の置き方」に意識を向けてみてください!

文・木谷宗義/type-e、編集: type-e