著者
ブレイディみかこ
保育士・ライター・コラムニスト。1965年福岡市生まれ。県立修猷館高校卒。音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、1996年から英国ブライトン在住。ロンドンの日系企業で数年間勤務したのち英国で保育士資格を取得、「最底辺保育所」で働きながらライター活動を開始。2017年に新潮ドキュメント賞を受賞し、大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞候補となった『子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から』 (みすず書房)をはじめ、著書多数。
【要点1】
英国は公立でも小・中学校を選択できる。人気の高い学校には応募が殺到する。が、著者の息子が入学したのは、白人労働者階級が通う元底辺中学校だった。
【要点2】
社会が多様化するとともに、人種差別もより複雑になっている。移民が移民を差別したり、英国人の側でもどちらかの肩を持って差別的発言をする人もいる。
【要点3】
保守党政権が始めた大規模な緊縮財政は、貧しい層を直撃している。今や、平均収入の60%以下の所得の家庭で暮らす子どもたちは、英国の子どもの総人口の約3分の1にもなる。
レビュー
子どもの世界は、大人の世界を鏡のように映す。英国在住のブレイディみかこ氏が綴る息子の中学校生活には、大人社会の複雑さがそのまま存在している。たとえば、ダニエルはハンガリー移民の両親を持つが、自らも移民に人種差別的発言をして生徒たちと衝突する。ティムは貧しさから食べ物に困り、学食で万引きをする。
著者の息子は、名門カトリックの小学校から、「ホワイト・トラッシュ(白い屑)」と差別語で呼ばれる白人労働者階級が通う中学校に進学した。息子は英国で育っているが、東洋人の顔をしている。体も小さい。いじめられないか、変化についていけるか、と両親は心配したが、彼はじつにたくましくさわやかにスクールライフをエンジョイするのである(そしてなんと、学級委員まで務める)。
ジョークまじりで読みやすい語り口ながら、著者の言葉には生活の確かな気配と、鋭い考察が共存している。息子と友人たちの熱い青春の日々を追ううちに、英国のブレグジットという選択の背景や、英国社会の分断が手に取るように伝わってくる。さらに英国に限らない、日本が、世界が抱える現代の社会問題が立ち現れてくる。
ときにこうした本こそが、ビジネスパーソンに示唆を与えるものなのではないか。社会に散在する課題に取り組みたいと願う方、グローバルな視野を持ちたいと願う方に、特におすすめしたい。
ブレイディみかこ
保育士・ライター・コラムニスト。1965年福岡市生まれ。県立修猷館高校卒。音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、1996年から英国ブライトン在住。ロンドンの日系企業で数年間勤務したのち英国で保育士資格を取得、「最底辺保育所」で働きながらライター活動を開始。2017年に新潮ドキュメント賞を受賞し、大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞候補となった『子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から』 (みすず書房)をはじめ、著書多数。
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