レビュー
平成から令和への改元とほぼ同時に、紙幣の刷新が発表された。新1万円札には渋沢栄一という人物。確か歴史の授業で名前を聞いた気がするけど……と頭をひねった人も多いのではないだろうか。
渋沢栄一は江戸時代末期に生まれ、明治維新後の日本実業界の根幹を築いた人物だ。幕臣から新政府の役人になり、退役してからは民間経済人として活躍した。彼が設立に携わった企業は500ほど。教育機関や公共事業の支援も行い、「日本」という新しい国造りに生涯を捧げた。日本が欧米列強に侵食されることなく、経済大国として躍進できたのは、彼の活躍があったからだろう。
本書は、そんな偉大な渋沢栄一本人による“談話集”である。明治45年に発行された著書『青淵百話』から57話を抽出したもので、人生訓やビジネスに関係する話題を中心に構成されている。1トピックが短く、それぞれに完結しているので、興味のあるところから開いてもよい。内容は、「天命とは何か」という哲学的なものから会社運営に対する具体的なアドバイス、そして「逆境に遭ったらどうする?」というような、人生相談的なものまで様々である。読み進めるうちに、渋沢栄一という人物が、まるで身近なメンターのように見えてくるのが不思議だ。
まずは気負わず本書を開いてみて欲しい。彼は、私たちに温かく、時に厳しく語りかけてくれる。ビジネスに、人生に必要なものは何かと。それらは決して古臭くなく、混沌とした現代を生きる私たちを勇気づけてくれる。