著者
鈴木 哲也(すずき てつや)
日本経済新聞社 企業報道部次長
1969年生まれ。1993年早稲田大学法学部卒業、同年日本経済新聞社入社。小売業、アパレル、食品メーカー、外食・サービス業など消費に関連する企業を中心に取材してきた。2003年から2007年、米州総局(ニューヨーク)で、ウォルマートなどの企業取材を担当。企業報道部次長などを経て、2015年日経BP社に出向し、「日経ビジネス」副編集長。2018年10月から現職。
【要点1】
本書は、セゾングループ各社の栄光と苦闘の軌跡をたどりながら、堤清二の人間像に迫っていく。
【要点2】
無印良品は高級ブランドブームのアンチテーゼとして誕生した。「消費者の自由の確保」を核とした無印商品は、堤の思想の結晶といえた。
【要点3】
赤字百貨店だった西武百貨店は、堤が打ち出したイメージ戦略などが奏功し、1987年度には売上高業界1位となった。しかし、堤の理想を実現するためのこだわりがコストを押し上げ、経営の足かせとなった。
レビュー
西武百貨店、無印良品、ファミリーマート、西友、パルコ、外食チェーンの吉野家。これらのブランドはかつて、「セゾングループ」に属していた。小売業、クレジットカードや生命保険などの金融業、シネマセゾンなどのメディア関連事業、ホテル、レジャーと、事業の多彩さは日本随一とされた。同グループを一代で築き上げたのは、堤清二氏である。2000年代にセゾングループは解体されたが、堤氏が育て上げた企業やブランドは、今なお私たちの生活になくてはならないものとなっている。
セゾングループの凄さは、消費文化をリードする先進性にあった。「商品を売るのではなくライフスタイルを売る」「モノからコトの消費へ」。こうしたコンセプトの原点は、セゾングループの挑戦のなかに見出せる。また、堤氏は当時すでに、数字だけで人間の幸福や楽しみを評価する価値観に、明確なアンチテーゼを打ち出してもいた。なんという慧眼だろうか。
ダイエー創業者、中内㓛氏と双璧をなす「流通業のカリスマ」でありながら、詩人や小説家としても活躍。財界に影響力をもち、政界にも顔が広い。もちろん、堤氏の人生は成功物語をちりばめたものではない。事業の持続力に欠け、バブル崩壊とともにセゾングループを崩壊させたオーナー経営者として、世論の批判を一身に浴びた人物でもある。そんな光と影が交錯する異色の経営者の軌跡を追いかけずにいられようか?
文化の「民主化」をリードし、現代が抱える課題をも先取りしてきた堤氏と、セゾングループを支えた数多くの立役者たち。先の見通せない時代だからこそ、その実像に迫ることは大いに価値があるはずだ。
鈴木 哲也(すずき てつや)
日本経済新聞社 企業報道部次長
1969年生まれ。1993年早稲田大学法学部卒業、同年日本経済新聞社入社。小売業、アパレル、食品メーカー、外食・サービス業など消費に関連する企業を中心に取材してきた。2003年から2007年、米州総局(ニューヨーク)で、ウォルマートなどの企業取材を担当。企業報道部次長などを経て、2015年日経BP社に出向し、「日経ビジネス」副編集長。2018年10月から現職。
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