レビュー
ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンは本書を「今年、そしておそらくこの10年間で最も重要な経済書」と称した。経済格差に関するトマ・ピケティの鋭い洞察は、最初に出版されたフランスだけにとどまらず、世界中で大きな話題を呼んでいる。そしてついにこの話題の書籍の日本語版が発表されたのである。
かつては「一億総中流」といわれた日本でも、近年では格差が広がったと叫ばれることが増えてきている。本書では経済格差の実態を明らかにするとともに、経済格差を埋めるためにはどうすれば良いのか、具体的な施策を提案している。その理想の実現にはまだまだ遠いかもしれないが、実現に向けた第一ステップは取り組む価値が十分にあるものだ。
700ページを越える大著のため、読むには多少時間が必要かもしれないが、論理構造はストレートで、グラフや分かりやすい統計情報を用いて解説しているため、意外にもあっさり読めてしまうかもしれない。たとえば、既存の経済学では富の不平等度合いをジニ係数という統計概念を用いて説明することが多いのだが、本書では所得階層別の比率(上位10%が国民所得の何割を稼いでいるか、など)という誰にでもわかる形で表現している。
この本を読む読者の多くは所得階層が上位にいると想定されるが、格差が歴史上で最も広がりつつあるという事実を目にして、自身の富だけでなく、社会全体に目を向けるきっかけにもなるに違いない。