レビュー
1人を殺せば5人が助かる状況があったとしたら、その1人を殺すべきだろうか? 金持ちに高い税金を課し、貧しい人びとに再分配するのは公正なことだろうか? 前の世代が犯した過ちについて、私たちに償いの義務はあるのだろうか?
本書で著者マイケル・サンデル氏はこのように「正義とは何か」について考えさせられる問いを投げかけてくる。これらは全て、正解はないが決断を迫られるものばかりだ。そして私たちの道徳観や倫理観に鋭く訴えてくる。
無論、本書はこうした正解があるのか分からない問いを並べただけの本ではない。政治哲学をこれほど分かりやすく説明してくれる書籍は貴重であろう。アリストテレスからカントやロールズといった古今の哲学者の主張を、様々な問いかけを通じて解明するなかで、単に多数派を重視するとか、自由であることが最重要であるといった考えには欠陥があることが分かるはずだ。ならば私たちが求めるべき正義とは何か。それをどのように政治に活かせばよいのか。哲学という学問は机上の空論では終わらない。
本書はハーバード大学史上空前の履修者数を記録したサンデル氏の超人気講義をもとにしたベストセラーだ。ハイライトでは語りきれていない内容も素晴らしく、また考えさせられるものばかりである。ぜひ本書を手に取ってこの講義にご参加いただきたい。