気象予報士・森朗さんに教わる!キャンプと天気|秋の日の出と日没にはご注意を
秋の太陽と釣瓶(つるべ)
秋の日没が早いことをたとえて、「秋の日は釣瓶落とし」といいます。いまの時代、釣瓶といわれても、それがなんなのかわからない人が多いでしょう。「つるべ」で検索すると、有名な上方落語家ばかりがヒットします。釣瓶とは、吊るす瓶のこと。どこに吊るすのかというと、井戸の上。そう、釣瓶は井戸の水を汲み上げる桶のことです。地面に深く掘った井戸に、滑車に吊るした桶を落として、水が入ったところで引っ張り上げる。井戸に釣瓶を落とすときは、重力のまま、勢いよく、あっという間に落ちていく。秋の太陽は、まるでその釣瓶のように地平に落ちていくということで、冒頭のたとえが生まれたのです。
日没が早く、日の出が遅くなる秋
秋になると、日に日に日の出の時刻は遅く、日没の時刻は早くなります。正午でも太陽の高度は低く、午後3時ごろになると、次第に夕方のたたずまい。外で活動しているときは、早めにテントの撤収にかからないと、どんどん暗くなってしまいます。のんびりしていると、あっという間に暮れてしまうので、ヘッドランプなどの照明器具や、もしもの場合の防寒具など、装備には充分気を配りましょう。
一方で、日の出の遅さは、日没の早さと比べるとあまり注目されません。というのは、それぞれのペースは同じではなく、日没の早さのほうが実際に顕著だからです。2024年9月1日の東京の日の出は午前5時13分、日没は午後6時9分。秋がいよいよ深まって、2024年11月30日になると、日の出は午前6時31分、日没は午後4時28分になります。この間、日の出は1時間18分遅くなりますが、日没は、そのペースを上回り、1時間41分も早くなります。日の出が何分遅くなったから、日没も同じだけ早くなる、と思ったら大間違いなので、キャンプの計画を立てるときは、必ず日の出と日没の時刻を確認しましょう。
夏から秋に比べて、秋から冬は季節の進みが速い
また、秋は暦の進みも速いです。暦は、よく1年を24等分したものといわれますが、実際の日数はそうではありません。2024年の場合、6月21日の夏至から9月22日の秋分までは94日間ですが、秋分から12月21日の冬至までは90日間しかありません。これは、地球が太陽の周りを回る公転速度が、季節によって異なるためです。わずか数日の差とはいえ、夏から秋は比較的ゆっくり季節が進むのに対して、秋から冬は季節の進みが速くなります。天気が悪く、キャンプのスケジュールを1週間先送りしただけで、日の出が5分、日没が10分、昼間の時間は15分縮まる、ということもあるので、スケジュールを変更したときは、行動計画の練り直しも検討したほうがいいでしょう。
太陽が昇る場所や沈む場所も要確認!
日の出、日没は、季節によって時刻が変わるだけではありません。太陽が昇る場所や沈む場所も変わります。夏の太陽は、真東よりも北のほうから昇ってきて、真西よりも北のほうに沈んでいきます。この軌道が、季節の進みとともにだんだん南に移動して、冬には南東から昇ってきて、南西のほうに沈んでいくことになります。計算上の日没は、標高や地形を考慮していないので、実際の日没はキャンプ場のスタッフに聞くなどして、ちゃんと把握しておいたほうがいいでしょう。
外で活動できる時間が短くなるのは残念ですが、秋は太陽からのエネルギーが減少するぶん、気温が低下して、上昇気流も抑えられ、天気の急変もなくなり、空気も澄んできます。遠景を望むには絶好の季節で、朝日や夕日を眺めるチャンスです。絶景を楽しむためにも、持ちものの準備と計画は綿密に、そして冷え込みに備えた体調管理もしっかり行なっておきましょう。落ちるのは釣瓶だけにしておいて、道に迷って低体温症、なんてとんでもない「落ち」にならないように。
教えてくれた人
森 朗(もり・あきら)さん
ウェザーマップ所属の気象予報士。TBSテレビ「ひるおび」に出演中。著書には『風と波を知る101のコツ』、『海の気象がよくわかる本』などがある。